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◆骨董コラム◆骨董品の「身分証明書」:共箱と箱書が作品の価値を左右する理由

陶器、茶道具、書画といった価値ある骨董品は、多くの場合、桐や杉の木箱に収められています。この木箱は単なる保管容器ではなく、作品の真贋(しんがん)や価値を証明する、極めて重要な要素です。骨董品の世界では、作品本体だけでなく、この**「箱」**に記された情報が、査定額を大きく左右する鍵となります。
骨董品の価値を裏付ける「共箱」と「箱書」
骨董品に付属する箱は**「共箱(ともばこ)」と呼ばれ、中の作品とセットで扱われます。この箱に記された作者名、銘、製作年などの情報は「箱書(はこがき)」と呼ばれ、作品の由来や歴史、作者を証明する「身分証明書」**のような役割を果たしています。
箱が語る歴史的情報
箱の素材も、骨董品の時代背景を推測する手がかりとなります。例えば、共箱の素材が桐製なのは江戸時代中期以降が主流であり、それ以前は杉の箱が多く使われていました。箱の素材と中の作品の作られた時代が合わない場合、その骨董品が贋作である可能性を見極めるヒントにもなるのです。
箱書の種類と査定への影響力
骨董品の箱は、誰が箱書を記したかによって分類され、その種類がそのまま骨董品の価値に直結します。
1. 共箱(ともばこ):最高の価値保証
最も価値が高いのは共箱です。これは、作者自身の手によって銘や作家名が記された箱で、作品の真正性を最も強く保証します。共箱があることで、その骨董品は作者に認められた正真正銘の作品であると証明され、査定額は大幅にアップするのが一般的です。共箱が失われたり、すり替えられたりすると、作品本体の価値も大きく下落してしまいます。
2. 極箱(きわめばこ):権威によるお墨付き
次に価値があるのが極箱です。これは、鑑定士、鑑定団体、あるいは作家の後継者や遺族など、有識者が鑑定を行い、本物であると認めた証として箱書を記したものです。共箱と同様に、品物の価値を裏付ける強力な材料として扱われます。
3. 書付箱(かきつけばこ):由緒ある所有の記録
高僧、大名、茶道の家元など、権威ある人物が所有の記録や日付を書き付けた箱を書付箱と呼びます。これは骨董品の由緒や来歴を裏付ける重要な証拠となり、作品の価値を一層高めます。
4. 合箱(あわせばこ):価値の保証なし
本来の箱ではなく、類似した別の箱に収納されている場合は**合箱(あわせばこ)**と呼ばれます。この箱は中の品の品質や出自を保証する効果はなく、共箱や極箱に比べて査定価値は低くなります。
査定における箱の決定的重要性
骨董品の査定において、箱と箱書は欠かすことのできない要素です。
査定額を何倍も左右する
箱書が施された共箱は、それ自体に歴史的・美術的な価値があるため、その有無や真贋が査定結果を決定的に左右します。同じ骨董品であっても、共箱があるかないかで査定額が何倍も変わることは珍しくありません。箱は、コレクターや美術館が購入を判断する際の、最も重要な裏付けとなるからです。
鑑定前の貴重な手がかり
遺品整理などで大量の骨董品が見つかった場合、まず箱書の有無を確認することで、おおよその品物の種類や価値を見分けることができます。著名な作家の名前が記された共箱があれば、それは価値ある骨董品である可能性が高いと推測できるのです。
箱を大切に扱うための注意点
箱はデリケートであり、その取り扱いには細心の注意が必要です。
箱書が施された部分は、汚れた手で触れたり、こすったりすることで、取り返しのつかない損傷を与えてしまう可能性があります。箱の損傷は、作品本体の価値をも下げることにつながります。
骨董品を所有する際は、作品本体だけでなく、箱もセットで大切に保管することが肝心です。湿気や直射日光を避け、適切な環境で保管することで、作品が辿ってきた物語を伝える「証人」としての箱の価値を守り続けることができます。
最終的な真贋や価値の判断は、信頼できる鑑定士に委ねるべきですが、骨董品を鑑定に出す際は、必ず箱と品物を一体として持参することを強くお勧めします。箱こそが、その骨董品の歴史を物語り、その価値を最大限に引き出すための重要な鍵なのです。