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◆骨董コラム◆福島武山、赤絵細描に命を吹き込んだ孤高の匠

九谷焼作家 福島武山:赤絵細描の名工

福島武山(ふくしま ぶざん)氏は、日本を代表する陶芸・九谷焼において、特に「赤絵細描(あかえさいびょう)」という伝統技法の第一人者として知られる陶芸家です。赤一色の顔料(弁柄/べんがら)を用いながら、髪の毛よりも細い線で息をのむほど緻密な描写を施すその技術は、国内外で高く評価されています。師を持たずに先人の作品を研究し、独学でこの高度な技を習得した福島氏は、伝統を現代に蘇らせ、独自の芸術性を確立した孤高の匠です。


経歴:独学で辿り着いた伝統の頂

1944年、石川県金沢市に生まれた福島氏は、1963年に石川県立工業高校デザイン科を卒業後、独学で赤絵細描の道を究めるという異色の経歴を持ちます。

赤絵細描は、江戸後期に南画の技法を焼き物に応用したもので、かつて九谷焼の代名詞となるほど隆盛を極めましたが、時代とともに衰退していました。福島氏は、この幻の技を九谷焼に再び呼び起こし、その復興に尽力しました。

その技術の高さは、1998年(平成10年)に第23回全国伝統的工芸品コンクールでグランプリ・内閣総理大臣賞を受賞したことで証明されました。2003年(平成15年)には石川県指定無形文化財に認定され、現在は九谷焼伝統工芸士会会長を務めるなど、後進の育成にも尽力しています。


作品の特徴:「赤」に秘められた無限の表現

福島武山氏の作品の魅力は、赤絵細描という極めて限定的な表現手段の中で、無限の創造性を引き出した点にあります。

1. 究極の細密描写

作品は、赤の顔料(弁柄)のみを使用しながら、小紋、花鳥、風月、人物といった題材を丁寧かつ細密に描かれます。線描用の筆は、通常の細書き用よりもさらに細く、自らの技法に合わせて特別に作成したものを使用します。

特筆すべきは、赤一色という制約の中で、独自の視覚効果や筆遣いの工夫により、立体感を表現することに成功している点です。また、赤絵の具の調合や窯の温度管理など、発色を良くするための技術的な工夫も多岐にわたります。

2. 伝統と現代の融合

画題は、唐子(とうし)や竹林の七賢人龍や鳳凰といった九谷焼の伝統的な題材を踏襲する一方、幾何学文様の網手ピエロを装う小人文花の上の妖精日本独特のまつり文など、独自で現代的な題材も取り入れています。この伝統と革新の融合こそが、福島氏の作品を唯一無二のものとしています。


赤絵細描の精緻な制作工程

緻密な赤絵細描は、気の遠くなるような手間と時間をかけて完成します。

  1. 下準備と下絵: 磁器の表面にかわの液を塗って埃や油分を取り除き、絵の具の付着を良くします。次に、**呉須(ごす)**で骨描き(線描き)をして、画題や模様の大まかな配置を整えます。
  2. 赤絵の具による描写: 最も長く手間のかかる工程です。描く線の太さや模様によって、筆の種類や絵の具の濃さを使い分けながら、赤の上絵を重ねていきます。
  3. 仕上げと焼成: 赤描きをすべて終えると、サンドペーパーで軽くなでるようにして表面の凹凸を取り除きます。これにより表面を滑らかにし、この後の金描きの筆運びを良くした後、窯に入れて完成に至ります。

福島武山氏は、赤絵細描という伝統技法を現代に蘇らせ、その可能性を極限まで押し広げた九谷焼の巨匠です。彼の繊細な技術と独自の芸術性は、日本の伝統工芸の粋を感じることのできる、貴重な文化遺産として輝き続けています。

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