お役立ちコラム
COLUMN
酒器に宿る日本の美意識 ― 徳利と酒盃の魅力
日本の食文化を語る上で欠かせないのが、酒を楽しむための器です。徳利(とっくり)や酒盃(しゅはい)は、単なる実用品ではなく、美と心を映す存在として長く愛されてきました。
徳利 ― 食の流れを整える名脇役
徳利は、懐石料理などの席で酒を注ぐ際に使われます。上質な徳利を選ぶことは、もてなしの心を示すものでもあり、酒席の雰囲気を大きく左右します。
中でも人気なのが「古備前(こびぜん)」です。室町時代の終わりから江戸初期にかけて作られ、土の風合いや自然に現れる焼き色の変化が魅力です。
瀬戸や美濃の産地では、黄瀬戸・志野・織部といった華やかで上品な徳利が重宝されています。唐津焼では、朝鮮唐津の彩り豊かなものや、絵唐津の落ち着いた風情が酒客に人気です。
さらに、九州・有田で焼かれた「古九谷」の徳利は、芸術性が高く、特に色絵の作品は酒席に華やぎを添えます。江戸後期の加賀・吉田屋窯の徳利は、明るい色使いが特徴で、集いの場を一層明るくしてくれます。
酒盃 ― 小さな器に込められた味わい
酒盃は「ぐい呑」とも呼ばれ、やや大ぶりで手に馴染む形が好まれます。瀬戸・美濃では黄瀬戸や志野、椿手(つばきで)など多彩な種類があり、中には六角形の型物といった個性的な作品も見られます。
唐津の酒盃は日本酒との相性が抜群です。鉄絵を施した絵唐津や、口縁に黒い釉薬をめぐらせた皮鯨(かわくじら)、白濁した灰釉の斑唐津(まだらがらつ)などは、今も酒器の逸品として珍重されています。
徳利と酒盃は、香りや味わいを引き立てるだけでなく、使う人の心を豊かにしてくれる存在です。日本酒とともに、器の奥深い美の世界を味わいたいものです。



