17世紀中頃から元禄期（1643年〜1688年）にかけての日本のやきもの史は、技術革新と地域窯の創設が爆発的に進んだ「陶磁器文化の大転換期」でした。この約40年間で、磁器・色絵磁器・九谷焼・京焼といった多様なジャンルが確立し、日本の焼き物は国内外へ大きく羽ばたきました。

1. 有田焼の躍進：赤絵の成功と分業制の確立

日本の陶磁器文化を世界的なレベルに押し上げたのは、肥前有田での技術革新でした。

• 「赤絵付」の成功（1643年）：酒井田柿右衛門が、磁器素地に鮮やかな赤や緑、黄色などで絵付けを施す**「赤絵付」に日本で初めて成功。これが、有田焼の色絵磁器「柿右衛門様式」**の始まりとなり、世界的なブランドの端緒を開きました。

• 藩による統制と分業制：

  • 1646年、鍋島藩は柿右衛門一家を御用焼物師として遇し、窯業を特産品としました。

  • 1672年には有田に**「赤絵町」が設けられ、登録制と分業制**（焼成と絵付けの分離）が導入されました。これにより、品質向上と生産の効率化が進みました。

• 藩窯の移転と発展：1675年には鍋島藩の御用窯が大川内山へ移り、染付、青磁、色絵などの様式が高度に発展しました。

2. 全国的な窯創設ラッシュと多様な個性

有田の成功と技術の波及により、京焼をはじめとする全国各地で新しい窯が次々と誕生し、地域ごとの個性が確立しました。

• 京焼の系譜：京都では野々村仁清が京焼の精緻な色絵陶器をはじめ、五条では**清兵衛（海老清）**が清兵衛焼を興しました。

• 地方窯の創設：この時期に、九谷焼（加賀）、本郷焼（会津）、相馬焼（磐城）、出雲焼・楽山焼（出雲）、閑谷焼（備前）、龍門司焼（薩摩）など、現代まで続く多くの窯が誕生しました。

• 藩窯の強化：各藩は陶工や技法を誘致・保護し、加賀の九谷焼・大樋焼、肥前の長与焼・松ヶ谷焼などが、地域の文化・経済に強い影響を残しました。

3. 社会背景と国際的な広がり

この時代は、幕藩体制による管理・奨励政策と、国内外への輸出拡大が同時に進行しました。

• 献上陶磁と輸出：有田では辻善右衛門が青華菊花章を染付け、朝廷への**「献上伊万里焼」**が吉例となりました。一方、伊万里港からは大量の伊万里焼が欧州の東インド会社などを通じて輸出され、日本磁器文化を世界に広げました。

• 管理と品質向上：1661年以降、藩や幕府による管理・保護が進み、独創的な様式と分業制の確立によって、大量生産と品質向上が両立しました。

江戸前期から元禄期は、朝鮮渡来の基礎技術を土台に、幕藩体制の管理・奨励、赤絵などの技法革新、そして国内外への輸出拡大が重なり、日本のやきもの文化が華開いた決定的な時代であったといえます。

画像出典：石川県立美術館 より